新しい薬剤ということで、これまで安息香酸ソーダとEDTA塩をご紹介してきました。
今回は、3番目の化合物として化合物Yをご紹介します。
化合物Yについては現在、水虫薬として開発中ですので、化学構造式は非公開とします。
化合物Yは、水虫菌が生息している(寄生している)皮膚の最外層(皮膚角層)において、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄などの必須金属と強固に結合してこれらの金属を無くしてしまいます。
このため、皮膚角層内に寄生している水虫菌は必須金属がないために死滅します。
そしてさらに重要なことは、化合物Yは皮膚角層内のタネ(胞子)に作用して、タネを発芽させます。
水虫の治療において最も厄介であったタネ(胞子)が発芽して親になり、タネが消失するのです。
タネをなくしてしまう方法として、こんな素晴らしい経路があったわけですね。
少し脱線しますが、細菌のタネ(芽胞と呼びます)に関しては以前に膨大な研究が行われており、「芽胞学」という表題の書籍が出版されています。
興味のある方は、大学図書館で探してみて下さい。
芽胞学、蜂須賀養悦著、1989年。
細菌は死亡率が高い各種伝染病の病原菌であり、このために芽胞の研究も盛んに行われたのですが、一方、カビ(真菌)のタネ(胞子)に関してはあまり研究が行われていないのが実情です。
真菌は人に対する病原性が弱く、健康な人であればせいぜい水虫程度ですので、「水虫で死ぬことはない」というところでしょうか(笑)。
化合物Yを水虫薬として広く使ってもらうためには、これを医薬品として開発することが必要です。
でも医薬品を開発することはとんでもない一大事業なのです。
私の手には負えないかも知れませんね(笑)。